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わきあがってくる一人ひとりの力

キャンプの朝は早い。まだ五時にもなっていないのにテントから次々と子どもたちが出てくる。ここは鮎喰川。その名の通りおいしい鮎がたくさん泳ぐダムのない清流だ。

僕はと言えば、釣り好きのフミヤ(小)を連れて、その早起きの子どもよりさらに早い時間から少し下流で釣り糸を垂らしている。ビクの中にはすでにオイカワやウグイが30匹余り。僕は手助けを極力しない。糸がからまったり、魚がはずしずらかったり、難儀もするがそれもみな「釣り」なのだ。

フミヤと僕はずっと無言。黙っているだけで気持ちが通じ合っていて充実感がある。朝の静けさの中、釣り本来の瞑想的な空気が二人を包む。

4泊5日のキャンプ中、一番人気のプログラムは岩の上から渕めがけてのとびこみ。初級は水面までわずか1メートル余りの岩のでっぱりから。それでもいざとびこむとなると、岩の上で足がすくんでしまう子もいる。口先のはったりは一切通用しないのがまたいい。

1回とびこむと後はへっちゃら。繰り返しとびこむごとに身のこなしや岩へのよじ登り方など技術も向上する。次々と高い岩へとレベルを上げていき、最後は10メートルもあるところから大ジャンプ。サキ(中1)を筆頭に高いところからとびこむのはなぜか女の子の方が多い。この手の遊びでの度胸はどうも男の子の方が分が悪いようだ。

タクマ(小2)は長期キャンプ初体験。昼間は元気いっぱい、ヤンチャ坊主ぶりを発揮するが、夜になるにつれ、お母さんが恋しくなりシクシク。まだ2年生。無理もない。ノゾミ(小6)ほか兄貴分の子たちやスタッフのシャモジらがいろんな遊びや話でまぎらわしてるうちにタクマはスヤスヤ。皆やさしい。

薪を拾い集め火をたくこと、お米をといでご飯をたくこと、テントで寝ること、水をくみに行くこと、釣った魚のウロコとはらわたをとること、肉や魚を切ること、大半の子どもにとり、どれも未体験なことばかりだ。TOECフリースクール卒業でこの手のことにたけているリョウイチ(中3)は、エスキモーロールといってカヌーに乗ったままひっくり返った状態から起きあがる技を習得するのに懸命だ。

生活そのものの「体験」に基盤をおいて、おのおのの冒険、挑戦がある。そのままの自分が認められ、他人との比較や競争から解放されると、様々なことで自分を高めてたり、調和させたりする力がわきあがってくるのだ。

どのこにも、内在するその力を僕は見失わないし、見逃さない。